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クローズアップ現代「泥沼の米中“貿易戦争” ~ファーウェイショックの行方~」


テスト的にNHKサイト(クローズアップ現代)から部分コピーしたものです。

正しくはNHKオリジナルサイトにて閲覧ください。
 




2019年5月23日(木)
泥沼の米中“貿易戦争” ~ファーウェイショックの行方~

泥沼の米中“貿易戦争” ~ファーウェイショックの行方~

6年2か月ぶりに景気動向指数が「悪化」へ引き下げられた日本。米中の貿易摩擦が深刻化する中、中国経済の減速によって、日本企業の生産が落ち込むなど、影響が広がっている。既に生産拠点を中国から移そうと対策を進める企業も現れ、米中の対立が長期化することに備える動きが出始めている。さらに、ここに来て、トランプ政権は、中国の通信機器大手・ファーウェイに対しても厳しい姿勢を強めており、世界や日本の企業へのさらなる影響が見込まれる。果たして、米中の激しい対立はいつまで続くのか?“貿易戦争”の最前線を追い、私たち日本や世界にどのような影響があるのかを考える。

出演者

  • 吉崎達彦さん (双日総合研究所 チーフエコノミスト)
  • 小柴満信さん (経済同友会 副代表幹事)
  • 武田真一 (キャスター)

“狙い撃ち”の波紋 影響は日本に…世界に…

武田:ファーウェイショックが世界を揺るがしています。中国を代表する企業への制裁にまで踏み切ったトランプ大統領。エスカレートする米中の対立に打開の道はあるのでしょうか。
アメリカ トランプ大統領
「中国にとっては大きな代償だ。彼らはハッピーではないが、それでいいんだ。すべてうまくいく。」

中国外務省 報道官
「さらに圧力を強めるなら、どこまでもつきあう。」

一昨日(21日)東京で行われた、ファーウェイの新型スマートフォンの発表会です。
詰めかけた100人以上の報道陣が注目したのは、ファーウェイ幹部のアメリカ政府に対する発言でした。
ファーウェイ日本法人 製造部門トップ 呉波氏
「ファーウェイは、アメリカ側の決定に反対する。世界のサプライチューンの信頼と協業が分断される。」

ファーウェイが反発しているのが、先週、トランプ大統領が下した決断です。ファーウェイの製品によって機密情報が奪われると警戒するアメリカ。国内の企業に対し、政府の許可なく取り引きすることを禁止すると発表したのです。
ファーウェイは、スマートフォンの出荷台数で世界第2位。通信設備では世界トップのシェアを持つ通信機器メーカーです。中国・広東省にある研究開発拠点は、社員が専用の電車で移動するほど広大。全従業員18万人のうち、半分近い8万人が研究開発に従事しています。
アメリカの一方的な決定は、ファーウェイと関わる世界の企業にまで影響を及ぼしています。ファーウェイの取り引き先は、パナソニックや三菱電機など、日本だけでも100社以上。世界中で1万3,000社近くに上るとされています。グーグルが、ファーウェイのスマートフォンへの基本ソフトの提供を取りやめると報道され、波紋が広がっています。
KDDIとソフトバンクは昨日(22日)ファーウェイの新機種の発売を延期すると発表しました。
世界に広く普及してきた、ファーウェイ製品。アメリカも例外ではありません。アメリカ西部で、インターネットや電話などの通信サービスを提供する会社です。
アメリカ 通信会社CEO
「この種のケーブルシステムを作っているのはファーウェイだけです。他社製品に交換するためには、ネットワーク全体の設計を見直さなければなりません。」

この会社では、ファーウェイとの取り引き禁止で、設備全体の見直しを迫られています。
アメリカ 通信会社CEO
「たとえば(ファーウェイの)装置を交換することになった場合、設置にどのくらいの期間がかかると思う?」

社員
「交換だけで1年から1年半は必要です。」
「無理ですよ。未知の領域です。」

アメリカ 通信会社CEO
「通信網からファーウェイを撤去することになれば、会社の経営に多大な影響が出ます。」

なぜアメリカは、中国を代表する企業を狙い撃ちする実力行使に踏み切ったのか。その背景には、中国の台頭がアメリカの覇権を脅かしているという強い危機感があります。
アメリカ トランプ大統領
「これまでアメリカは最も大切な産業と技術を中国に不当に奪われてきた。」

中国は、2025年までに、情報通信やAI・人工知能などの先端技術で世界トップ水準を目指す国家戦略を掲げています。
ファーウェイが世界をリードする次世代通信5Gは、その中核を担っているのです。
トランプ政権で安全保障政策を担当していた、マクマスター前大統領補佐官です。中国の国家戦略は、将来的にアメリカの軍事的な優位も揺るがしかねないと懸念しています。
アメリカ マクマスター前大統領補佐官
「中国は民間の先端技術を軍事に融合する戦略を推し進めています。中国共産党の政策は、アメリカの国益と繁栄を脅かすものです。中国の政策に対抗しなければならないのです。」

日本企業の経営者は、ファーウェイショックをどう捉えているのでしょうか。

広がる影響 いま何が起きているのか

ゲスト 小柴満信さん(経済同友会 副代表幹事)
ゲスト 吉崎達彦さん(双日総合研究所 チーフエコノミスト)
武田:グローバルにビジネスを展開されている小柴さん。半導体製造用の素材を作られているということですが、今回のファーウェイショックをどうご覧になっていますか?
小柴さん:我々がグローバルにビジネスを展開する場合、昔は市場の機会を見て、検討しながらやっていましたが、2000年以降になって、Gゼロという世界の中で地政学=ジオポリティクスをいろいろ考えるようになって、たぶん業種によっても違うと思うんですけれども、我々のような設備産業の場合には、長い間ビジネスをしなければいけないのでサスティナビリティは非常に重要になってきます。そこに加えて先端技術は、我々の世の中の進歩にも役立つし、生活もよくする。ただ一方で、それが武器としても役立つという、先端技術の二面性によって、世界の勢力地図が変わってくると。そういった状況を、我々は事業展開する中で考えていかなければいけないと思い知らされる、一つの象徴的な事例じゃないかと思います。
武田:一方、アメリカの政治・経済に詳しい吉崎さんは、ファーウェイが、いわゆる5Gの分野で世界をリードしている現状を、「アメリカにとっての第2の“スプートニク・ショック”だ」と指摘されています。
「スプートニク」とは、旧ソビエトの人工衛星ですけれども、これはどういうことでしょうか?
吉崎さん:ちょっと古い話なんですが、昔、アメリカとソ連が対立していた時代に、アメリカは当然、宇宙開発では自分が一番進んでいると思っていた。そしたら、人工衛星をソ連のほうが早く打ち上げたと。そのことに大変ショックを受けて、そこから一念発起して、アポロ計画を作って、月面着陸へというストーリーがあるわけですけれども、今回、5Gもまさしくそうで、気が付いたら中国のほうが進んでいるじゃないかと。そのことにちょっと焦りを感じているように思います。
武田:アメリカにとっては大きなショックなんですね。

エスカレートする応酬 第4弾も

武田:互いに関税を引き上げる応酬を続けてきた米中両国ですけれども、トランプ大統領は第4段の関税引き上げについて、早ければ来月(6月)の下旬にも実施できるように手続きを始めています。
この第4弾は、これまでとはレベルが違います。ほぼ全ての中国からの輸入品に対して関税をかけるというものだからです。これまでの応酬で、すでに影響が広がる中で、この第4弾を避ける道はあるんでしょうか。

エスカレートする応酬 対立は解消するか?

世界の工場と呼ばれてきた中国。製造業が集中する深センで、今、異変が起きています。一昨日、深センのメーカーと取り引きがある日本の商社マンが現地を訪れました。
自動車やスマートフォン向けの工作機械を生産している、この工場。毎年1割ほど売り上げを伸ばしてきましたが、今年(2019年)に入って受注の伸びが止まりました。
工作機器メーカー 社長
「この先どれだけ注文があるかわかりません。」

貿易摩擦が激しさを増す中、今後、事業はどうなるのか。商社マンは社長に尋ねました。
工作機器メーカー 社長
「今まだどの程度かわからないで、そういう事が設備が止まるとか、半年後スタートとか、いろいろ止まってる仕事が多いですね。」

航進エンジニアリング 大石忠秀さん
「仕事が減ったのかもしれないし、そこら辺の把握はまだ彼らがしている最中だと思います。制裁とかいろいろな形があると思うんですけど、それは全く僕らは読めないというのが怖いじゃないですか。」

貿易摩擦による影響は中国だけにとどまらないと、専門家は指摘します。
日本総合研究所 上席主任研究員 三浦有史さん
「メイド・イン・チャイナ、実際はその製品Aには中国だけでなく、台湾、韓国、ASEAN、日本から調達された部品が組み込まれて。」

世界の企業は、中国を中心としたサプライチェーンでつながっています。アジア各地で作られた部品は中国で組み立てられ、アメリカへ輸出されています。このため、関税の引き上げで輸出が落ち込めば、アジアを中心とするサプライチェーン全体が打撃を受けるのです。今後、ほぼ全ての輸出品に関税がかかると、影響はどこまで広がるのか、専門家が独自に試算しました。影響は中国だけでなく、多くの部品を供給する台湾や韓国、マレーシア、そして日本にも及ぶことが明らかになりました。
日本総合研究所 上席主任研究員 三浦有史さん
「中国を最終的な組み立て拠点としてアメリカに輸出するという従来のグローバルチェーン。このグローバルなバリューチェーンに乗っている企業に対して(影響が)集中的に現れる。そういう電気、電子産業において、部品を供給する役割を担っている企業は大変大きな影響を受けることになる。」

一方、アメリカでも深刻な影響が出始めています。中国への主要な輸出品だった大豆。中国が報復の関税をかけたことで、廃業する農家が増えているというのです。
大豆農家 クリストファー・ギブスさん
「大豆の価格は3割下落しています。」

これまでトランプ大統領を支持してきた、この男性は、自国の産業が打撃を受けても強硬姿勢を貫く大統領に怒りの声を上げています。
大豆農家 クリストファー・ギブスさん
「不安な気持ちでいっぱいです。今はもうトランプ大統領を支持していません。」

さらに影響は、消費者にも及びかねません。トランプ大統領が、中国からのほぼ全ての輸入品に対して、関税を引き上げる可能性があるのです。中国でスニーカーなどを製造するアメリカの170の企業は、関税が引き上げられれば、大幅な値上げを余儀なくされるとして、トランプ大統領に連名で抗議の書簡を送りました。
アメリカの調査会社のエコノミスト、ローラ・ボフマン氏。トランプ大統領が関税を引き上げることで、アメリカ経済がどれだけの打撃を受けるのか試算しました。今後、関税がほぼ全ての輸入品にかけられると、4人家族の世帯では、年間の支出がおよそ25万円増加します。仕事を失う人も215万人に上るというのです。
調査会社エコノミスト ローラ・ボフマン氏
「多くの企業が新たな社員の採用を見合わせています。関税の引き上げから1年が経ち、打つ手がなくなっているのが現状です。この関税によってアメリカ経済は徐々にむしばまれていくでしょう。」

大きな影響が出る、第4弾の関税引き上げ。なぜアメリカは、そこに踏み込もうとしているのか。先月(4月)まで、中国との貿易交渉で中心的な役割を担ってきた、クリート・ウィレムズ氏です。交渉の中でアメリカは、中国がアメリカの先端技術を不当に入手しないよう、法改正まで迫ったといいます。
アメリカ ウィレムズ前大統領副補佐官
「かつての中国との協定はおおざっぱで具体的ではありませんでした。その結果、中国は協定に従ってこなかったのです。ですから今回のアメリカの目標は、強制力のある明確な約束をとりつけることです。アメリカは中国が構造改革をおこなうよう、力を入れているのです。」

一方の中国にも譲れない一線があります。2025年までに、製造業を世界トップ水準に育成する国家戦略を掲げる中国。それを実現するカギは、政府が国有企業に支給する補助金です。アメリカからは「過剰な補助金が公正な競争をゆがめている」と是正を求められています。
「こんにちは。国家健康医療ビッグデータセンターにようこそ。」
中国の市政府から、およそ1,000億円の支援を受けている医療研究の企業です。最先端の遺伝子検査機器を導入し、急成長を遂げています。
政府からのばく大な支援によって、世界の企業との競争で有利な立場に立っているのです。
広報担当者
「私たちは国有企業ですから、政府の投資によって成り立っているといっても過言ではありません。投資は今後も増えるでしょう。」

国有企業への補助金などの優遇策は、年間数兆円に上ると見られています。アメリカによる関税の引き上げが続き、補助金まで廃止させられれば、国有企業は大きなダメージを受けると専門家は見ています。
天則経済研究所 盛洪所長
「長期的に見ると(関税は)中国の経済発展にマイナスの影響を与えるかもしれません。政府による優遇策の廃止は、国有企業にとって当然受け入れられないのです。」

アメリカと中国の厳しい対立。どう決着するのでしょうか。

対立は解消するか?米中の思惑

武田:トランプ大統領と習主席は決着させることはできますか?
吉崎さん:第4弾の関税は、要するに残り全部ですから、3,000億ドルぐらいと、すごい規模なんです。ただ、これを実行するのは1か月後と言われていて、ちょうどその時期には、大阪でG20の首脳会議があって、そこに米中首脳会談が重なるわけなんです。トランプ大統領としては、関税の引き上げをテコにして、新たな譲歩を引き出そうという、いつもの作戦だと思います。
武田:そこでは何らかの決着を見る可能性もありますか?
吉崎さん:中国側が大人の返事をする可能性は、私は十分あると思います。
武田:ただ、構造的な改革も求めているわけですから非常に根深いですね。
吉崎さん:そうなんです。ですから、トランプ政権の側にもいろんな意見があって、トランプ大統領はどっちかというと「赤字が問題だ」と言っている。ところが、いろんな人がいて、ライトハイザー通商代表は「とにかく、この構造的な問題を直さなければいけない」と言っている。それから、先ほどの先端技術の問題じゃないですけれど、「安全保障がより問題だ」と言っている人がいる。
全体として、中国に対して、ガツンと出なければいけないという意識はあるんだけれど、じゃあ、戦略がちゃんとアメリカの中にあるかというと、そこはちょっとおぼつかない感じがしますね。
武田:とすると、これは相当長引くことが考えられますかね。
吉崎さん:通商交渉に関して言えば、どこかで折り合いをつけることはできるかもしれませんが、こういう米中の対立は、10年、20年かかると考えておく必要があると思います。
武田:来年(2020年)アメリカ大統領選挙を迎えます。貿易戦争の影響が自らの支持層にも広がっている中で、トランプ大統領はこのまま対中強硬路線を続けていくことができるんでしょうか?
吉崎さん:大豆農家の方が大変怒っていましたけれども、トランプ大統領という方は、機を見るに敏な方なので、そういうところを見ながら上手に立場を変えていくんじゃないかなと思います。

対立は解消するか?日本企業はどう備える

武田:アメリカは中国に対して、経済や産業の商習慣や仕組みそのものを改革するよう求めています。小柴さんも経営者として、こうした改革の必然性は感じますか?
小柴さん:今、一番問題になっている技術の強制移転とか、知的財産の保護とか、こういうものに関しては、私のパートナーや友人から聞くと「競争は歓迎するけれども、やはりフェアであろうよ」と。そういう意味でいうと、フェアな競争をする環境を作ることに関しては、結構支持が強いですね。
武田:技術移転が問題になっていますけれども、中国にどういうことを求めますか?
小柴さん:例えば、我々が中国で工場を建てようとすると、そこで作る製品の内容を全て開示しないと、なかなか製造許可が取れないとか。
武田:それが企業秘密であったりするのに開示しろと。
小柴さん:そうですね。
武田:そこは、トランプ大統領の言っていることも、ある種、一理あるとお感じになるんですね。
この米中対立は、10年、20年続くかもしれないという指摘もありましたが、こういった状況をどう捉えて、どう備えますか?
小柴さん:やはり政治とビジネスは切り離して考えるべきであって、今、政治は、Gゼロの世界から、先端技術の二面性に明らかにレジームチェンジがあるわけです。
武田:レジームチェンジ?
小柴さん:世の中の枠組みが変わってくる中で最適解を探していくのだと思うんですけれども、現実的には、ビジネスを地域的にも事業領域においても多様化して、かつ、そういう意味で言うと、ポートフォリオで事業をくみ上げていくのが、一番現実的な解じゃないかと思います。
武田:いろんなところにリスクを分散させるということですね。
米中対立の長期化を見据えた動きも起きています。
今週、日本の精密機器メーカーの社員があるプロジェクトを任され、ベトナムの工場に向かっていました。
オプテックス・エムエフジー 林出幸治さん
「工場もどんどんできていますね。いまから行くノイバイ工業団地も、新しい工場がいくつもできていますね。」

「ここが先週から通常量産を開始したラインになります。」
これまで、自動ドアなどのセンサーを中国で製造し、アメリカに輸出してきた、このメーカー。ベトナムでの生産を拡大することにしたのです。協力企業の生産ラインを増設し、作業員の教育にも力を入れています。背景にあるのは、関税の相次ぐ引き上げ。上乗せ幅は、去年(2017年)9月に10%、今年5月には25%になりました。この負担を回避するため、中国中心の生産比率を見直し、この1年でベトナムの割合を大きく引き上げる計画です。
オプテックス 上村透社長
「いまの試算でいくと、われわれが何も対策をしなければ、アメリカの利益の半分以上が、税金、関税で飛んでいくくらい大きな影響を受けます。やっぱり(中国から)分散をしておかないと、非常にリスクが高いということで、ベトナムへの比率をこの1年で一気に上げたいと考えています。」

対立は解消するか?日本はどうする

武田:小柴さんの会社は、どちらに分散させているんですか?
小柴さん:我々は、特に設備産業である合成ゴムの製造設備は、タイを選択しました。
武田:これまでも中国以外に拠点を持つ「チャイナプラスワン」という考え方はあったと思うんですけれども、そのプラスワンの部分だけで、うまくシフトできるのか、中国を中心としたサプライチェーンに代わる仕組みは作ることができますか?
小柴さん:その製品の性質にもよると思うんですけれども、中国は市場としては非常に重要な所なので、マーケティングとか販売とかは強化はしていますけれど、エレクトロニクスの場合は、非常に中国が深く組み込まれているので、時間はかかるけれども、新しい組み直しは、私は可能だと思っています。
武田:吉崎さんはどのようにお感じになりますか?
吉崎さん:アメリカと中国がこんなに激しく競り合う時代では、やっぱり規模感を正しく身につけなくてはいけなくて、今、GDPでいうと、アメリカが20兆ドル、中国が12兆ドル、日本で5兆ドルですから、4倍と2.5倍の相手が競っていると思わなければいけない。そういう中にあって、相対的な弱者であることを自覚しつつ、その中で、いかに選択肢を増やして柔軟にやっていくか。そういう知恵が問われる時代かと思います。
武田:米中の貿易交渉が行き詰まる一方で、アメリカは日本とも新たな貿易交渉に入っています。トランプ大統領は先週、こんな気になる指示を出しました。「日本などから輸出される自動車は安全保障上の脅威だ」としまして、日本からアメリカへ輸出される自動車の台数を減らすような対策を協議するように求めています。
小柴さんの会社も自動車関連の企業との取り引きをされていると思いますけれども、日米の貿易交渉の行方をどう受け止めていらっしゃいますか?
小柴さん:これは正直言って、新しく出てきたことだし、ポリティカルに言っているような面もあるので、行方を冷静に見守るしかないんじゃないかなという気はします。
武田:トランプ流の強引なやり方の矛先が日本に向くんじゃないかという懸念について、どう考えますか?
吉崎さん:客観情勢で言うと、今はむしろ中国に専念して、日本、ヨーロッパ、カナダ、メキシコはちょっと抑えておこうという感じが見えます。ただ、今回の訪日の時はともかく、中期的、長期的に見て、日米の貿易不均衡は大きいですから、また蒸し返されることはあるだろうなと。それに対して準備をしておく必要があるかなと思います。
武田:アメリカと中国という大きな経済大国同士が対立する中で、日本はどうすればいいと思いますか?
小柴さん:日本はグローバルに市場を求めなければいけないので、その中で、市場における機会と地政学。それから技術の二面性による世界の枠組みの変化を考えながら経営をやっていくんだと思います。